// 傘 – chijou no sora

せっかく傘を持って出たのに
忘れて帰る 濡れたアスファルトの道
水溜りを避ける 小さな路地の入り口 何かの気配
誰もいない でも何もないわけじゃない
怖くはない きっと誰かが落としてった
忘れ物

それは涙だったのか 小さな秘密だったのか
破れた想いだったのか
吸い込むと なぜだろう ちょっと痛い

今日も誰かが 想いを落としていく
重たい荷物を下ろすように
姿のない光る雫を拾い上げたその手は
何を想うのだろう

路地だけが知っている 落し物
柔らかな雨とたくさんの時間が
頭を撫でで 流していく


飛行機雲は飛行機の落し物 虹は雨と太陽の落し物
ぼくが落とした落し物
教室の後ろの窓の出っ張った縁
バスの停留所 昔の家の二階の小さな机
雪だるまの隣 もう名前も忘れた帰り道
まだ そこにあるかなあ

今日も誰もが 想いを落としていく
重たい荷物を下ろすように
姿のない光る雫を拾い上げたその手で
優しく撫でてあげて

なぜか急に泣きたくなって
誰かのために声をあげたくなって
同じように 誰かが
僕が落とした落し物を拾い上げて 
涙を落としてくれてたりするかな

ずぶ濡れになってもいいことがひとつだけ
泣いていても誰にもわからない
空が泣き止んで 空気がしゅっとなって
心もなんとなくしゅっとなって
ああ また 何かの気配
誰もいない でも何もないわけじゃない
きっと誰かが落としてった忘れ物
震える手でそっと撫でて
いっこ拾って帰ろう
傘のない帰り道