悲しみが 走っていった
お前は何処へ行こうというのか
いらないと思ったから 拳を振り上げて追い出した
喜びが追いかけていった
憎んでいたはずなのに あいつのあとについていった
楽しさが逃げ出した
愛想を尽かして出ていった
逃げたければ行けばいいさと 背中から顔を背けた
欲望がいないことに気づいた
いつのまにか手を離してた
繋いでいたかも覚えてなかった
最後に怒りを手放した
とぼとぼと歩いていった 見送ることさえしなかった
全てがいなくなって 心はひとりぼっちになった
全てはいなくなって 心は無表情になった
空っぽになったはずなのに
痛かった
この耐えがたいほどの痛みはなんだ?
隅っこで震えていた お前は誰だ?
寂しさだとお前は言った
「死にそうだ この痛みを止めてくれ」
「俺のせいじゃない」
お前は言った
「なぜ捨てた? それほど大事だったのに」
暗闇を 走り出した
逃げ出したものたちを捕まえに
悲しみを捕まえた
お前は何処にいこうとしたんだ
いらないと思っていた 涙で痛みは薄れていった
喜びがついてきた
見捨てないで来てくれた
笑い声がこぼれて 寂しさは薄れていった
楽しさが帰ってきた
鬼ごっこに疲れて好きだと叫んだら
知っているさと笑いやがった
欲望を探し回った
こんなところに隠れてた
呼んだら手を伸ばしてきたから
その手をぎゅっと握り返した
怒りが最後に戻ってきた
力尽き倒れたその傍らで
「いてもいいのか?」 と呟いた
震えながら抱き寄せた
やつらは互いに抱き合って 確かめ合って
ああそうだ こんなに大事だったんだ
全部大事だったんだ
寂しさは見えなくなった
でも わかっている
今もそこにいるんだろう?
お前は答える代わりに 別なところを指差した
いつの間にやら住んでいた
知らない間に連れてきた
お前は誰だ?
「俺は誰だ?」
と そいつは言った
「俺の名前はお前が決めろ」
そいつの名前は 今はまだない
答えを求めて
今日も走って行く
今も走っている